SOL Y SOMBRA (モハカル、アルメリア)

Gパン,Gジャン,パンツ3枚,クツ下4足,ポロシャツ1枚,Tシャツ2枚を洗い終えると、もう大分時間が立っていて、僕は夕食を食べに下へ降りた。このオスタルにもレストランが付いているのだが、宿泊料から察すると、余り値段的に期待出来そうもないので、Barのカウンタ−でボカディジョとセルベッサを頼んだ。僕の他に泊まっている客がいないのか、あるいは皆まだ外に出ているのか、僕が食べている間、Barにもレストランにも降りてくる人は居らず、ただ出口近くのカウンタ−の端で土地のオジサンが、何も頼まぬまま椅子に座って、道路の向こうに見える海を眺めているのだった。時折手元に視線を落とし、すぐまた水平線を眺めといった風に、僕がBarに居る間中、ジッと物静かにBarの椅子に腰掛け、僕に淋しげな背中を見せ続けていた。陽はすでに沈んでいて、薄暗い海に波の白さだけが浮き上がって見え、やがて水平線の少し上から、チョットだけ欠けた赤い月がボンヤリと現われた。僕は海を見続けているオジサンの横を通ってBarを出て、波打ち際まで行ってみた。海の見える宿に泊まったのは、スペインに来て初めてだったが、夕闇の港ではなく、海岸を見るのも初めてだった。アリカンテの海岸では、夕暮れまでは浜にいたけど、陽が沈むと早々に街のBarへ行って、夕飯にしてしまったのだった。

Barのカウンタ−の端から海を眺め続けているオジサンの視界に居ない方がイイだろうと思った僕は、少し大きめの波が打ち寄せる小石の海岸を歩いた。薄暗闇の中で見る、波で濡れた浜辺の石というものは、まるで宝石のようであり、カットされたガラスの様な宝石には全く魅力を感じないが、この浜辺の宝石は、本当に全て持って帰りたくなるほど、ツヤツヤと様々な色に輝いて散らばっているのだった。しかしその一個を拾い上げ砂で拭いて乾かすと、白く濁ってしまって、波に濡れて初めて輝きだす浜辺の宝石を、愛しくも感じるのだった。

次の日山の斜面の街まで行き、展望台で下を見下ろすと、小さな山がポコポコと並んでいるのが海と街の間に見え、パノラマチックなのだけど、その風景のド真ん中にドド−ンと建っている最近のものらしきホテルがあって、そのパノラマを随分とつまらないものにしてしまっていて、もしあのホテルの場所にこの展望台があったなら、この街ももっと活気のあるところになっていただろうになと思ったりしたのだった。あの風景を独り占めしているホテルの屋上では、誰もその風景を眺めてなど居らず、皆カラフルな水着を身に付けて、小さなプ−ルに飛び込んだり、ビ−チチェアに寝そべったりしてるのを、少し上から見下ろしたときには、石でも投げてやろうかと思ったのだけど、まぁ人それぞれなのだから仕様のないことだし、あの風景もそれぞれの部屋から思う存分眺められる様になっているのだろうと思う。もっと奥の山の上に登って、海と小さな山々と街とを一緒に視界に収めてみようと思ったのだが、その奥の山から黒い雲が現われて雨が落ち始めたので、Barに入ってやり過ごしている間に夕方となり、夕飯を食べて少し離れている海岸まで歩いて戻った。

その日は、海を眺めるオジサンは宿のBarには居なくて、あるいはその日の気分でBarを変えているのかも知れない。僕は早々と部屋に上がってシャワ−を浴び、洗濯物を取り込んだりして、明日アルメリア行きのバスは、どっちで止まるのだろうかと考えていた。アルメリアに向かってた時は、山の街の外れのバス停で止まったのだが、アルメリアから来た時は海岸まで来てしまった。もし運チャンが街で止まるのを忘れて海岸まで来てしまったのであって、停留所は山の方だとすると、荷物を担いで登るのはかなりシンドイ事になりそうだった。しかし停留所でなくとも、手を振れば止まってくれそうな気もするのだが。

次の日、清算してもらうと3000ptsのはずが2000ptsで計算してくれ、これは間違ったわけではないと思うのだが、僕が泊まった部屋はシングルであるし、それ以下の部屋は無いはずだし、2日で6000ptsは痛いなぁと思っていたところに、いきなり2000pts浮いてしまったのだからとても嬉しかったのだった。しかしこの幸運は、少し前から予感があったのだ。つまり、まぁ子供みたいだけど、ムルシアからアルメリアへ乗った時のバスのシ−トナンバ−が7であり、アルメリアからモハカ−ルへのバスでは17であった。そして宿の部屋の番号が117で、余り7が続くので、これは何かイイことでも起きるのではないかしらと思ってたら、案の定宿代が安くなった。そして1km歩いて、バスから降りた場所の近くで庭の手入れをしているオジサンに、ここはバス停なのかと聞くと、そうだと言うので、看板もベンチも無い、少し道が広くなっているだけの場所で、荷物を降ろしてバスを待った。30分程してバスは来て、少し混んでいたのだが2つ並んで空いている席があり、何気なく座ると、そこは何とシ−トナンバ−17で、これはやはり宿代は安くしてくれたのだと思うべきなのか、あるいはまだ何か幸運が続くのか、あるいはこの日にロットでもやったら当たったりするのだろうか、それにしてもこの7続きは一体何なのだろうかと、不思議な気持ちを乗せて、バスはアルメリアに着いたのだった。しかしスペインにもロットはあるのだけど、様々な種類があって何が何だか分からんというのが正直なところであり、ロッテリアといってこれは恐らく番号の決まっているクジだと思うのだが、そのロッテリア売りの人が街には一杯居て、Barで飲んでても後ろから、ロッテリア買わないかと声を掛けられたりするのだ。街角で売ってる人達もあるいはテリトリ−でもあるのか、毎日同じ場所に陣取って、掛け声も各々個性的に、ロッテリ−アと叫びつつ売っているのだが、マドリッドのプエルタ・デル・ソルのメトロの入り口近くに、椅子を持参して売っている日に焼けたオバサンなどは、もうほとんど人生諦めたとでも言いたげな叫び声であり、はたして何人の人が彼女から幸運を求めて、ロッテリアを買うのだろうと心配になってしまうのだが、意外と通はああいうオバチャンから買うのかも知れない。ある日Barで飲んでたら、テレビでロッテリアの番号発表があって、全部で何桁かは忘れたけど、下3桁が何と2が3つ並んだ番号であり、それを見たBarの奥さんが呆れたように、「ドスドスドスだって」と小さく呟いたのだった。

さて、アルメリアに宿を取って次の日、港を回った街の西側にチョット魅力的な山の斜面があり、微かに道が通っている様な筋が見えるので、少し貧民街的な家並みの中を通り、山の斜面を登っていったのだった。ここも岩肌の斜面であり、木など全く生えていないのだけど、その家が途切れてからの道というものは、もう最近はほとんど誰も通ってないらしく、照り付ける太陽と岩肌の斜面の荒れた道に、砂ぼこりを巻き上げて吹く風と、サボテンの向こうから現われるバンダナで覆面した2人組の男達となると、まるでマカロニウェスタンの世界になってしまうけれど、強盗よりも蛇とかは、こういう岩山に住んでいたりしないのだろうかと思ったのだった。岩を飛び越えると、鎌首を持ち上げシッポを鳴らしてトグロを巻いているガラガラヘビが、いかにも居そうな雰囲気の山であり、蛇の他にも、これだけ暑くて乾燥している環境ならば、あるいはサソリであったり、トカゲや毒蜘蛛あるいは毒蟻といった、なりは小さくとも毒だけは強烈なものを持っている生き物が、居てもおかしくないと思えるのだが、はたしてスペインにそれらは居るのであろうか。オ−ストラリアの街では、美術館があれば必ずと言っていいほど博物館もあって、何とかと云う毒蛇の分布図やら、レッドテ−ルスパイダ−の拡大写真やら、それらの毒で腫れ上がった人の腕や足の写真やら、イヤという程見せられるわけで、スペインのmuseoはほとんど美術品のmuseoであり、これまた宗教絵画をイヤという程見せられるわけだが、この国にはどんな動物が野性で生息していて、毒を持った動物は居るかなどという情報は、今まで全く入ってきてないのだった。それから、オ−ストラリアではクロコダイルというワニの一種が、とてつもなくデカク育って北のジャングルに生息しているのだけど、ある日、クロコダイルとアリゲ−タ−とは、どこがどう違うのか疑問に思った僕は、ダ−ウィンという北にある街に滞在中、図書館へ行って調べたのだった。係の女の人が6,7冊ワニに関する本を持ってきてくれて、小学生向けのような字の大きい本しか理解出来なかったのだけど、クロコダイルというのは口を閉じた時、牙の何本かは口の外側に出て見えるのだけど、アリゲ−タ−は口を閉じると牙は全て口の中に収まり、外からは見えない、というのが外見的に一番大きな違いであり、他にはこれといって違いはなさそうなのである。クロコダイルもソルトウォ−タ−とフレッシュウォ−タ−という種類があって、ソルトウォ−タ−はデカイのになると13mという記録があるらしく、かなり狂暴で、小さいボ−トなら噛って穴を開けるなどというのは朝飯前であり、海面より上にいれば大丈夫だろうと高を括っていると、ワニは海面から1m位ならあの尻尾の推進力によってジャンプすることも出来、陸上でもかなり早い速度で走ることが出来るのだ。さらに意外なことには、水中では彼等は獲物を飲み込むことが出来ないのだ。なんて事を知ってなかなか為になったのだけど、スペインは図書館も在るのか無いのか、本屋に行ってもそういう関係の写真集らしきものも見当たらず、そういう種類の知識が完璧に欠落してしまっているのだった。なんてことを考えつつ荒れた道を登っていると、居たのである。ヘビではなくトカゲだったけど、それもオ−ストラリアの時の様に、バスの運チャンが慌ててハンドルを切らねばならぬ程大きなトカゲではなく、日本でよく見掛ける大きさのもので手の平に乗る位なのだけど、でも日本だって石垣島や西表島に行けば大きいのが居て、砂浜で遊んでいる小さな子供を草むらの中でジッと眺め、赤い舌をチョロチョロと出してる姿はなかなか不気味であるけれど、スペインのそれは良く見慣れたサイズで、しかし尻尾は赤く、アンテナの様にヒュルヒュル振り回していて、胴体もどっちかというとヤモリの様に半透明で赤味を帯びており、こっちのチョットした隙を見て、素早く姿を消してしまったのだった。次には蛇が出るか蜘蛛が出るかと、荒れた道をキョロキョロしながら歩いていたのだけど、紋白蝶が水先案内の様にフワフワ前を行くだけで、それからは何も現われず、道は突然無くなってしまったのだった。そこは石切場だったと思われる場所であり、70m位切り出した後の天辺に出たのだった。眺めがイイので、アルメリアの港からアフリカのスペイン領メリジャへ行く船が、静かに小さくなっていくのを見届けてから街へ戻った。

Barに入ってBeerを飲んでると、ロッテリア売りのオバサンがスロットルマシンにかじり付いていて、このスロットルマシンは大抵のBarに置いてあってオジサンやオバサンがやってるのを良く見掛けるが、そのロッテリアのオバサンはかなり熱が上がってる様子で、ロッテリアの入った白いビニ−ルの袋から1000pts紙幣を出しては、「両替してちょ−だい」という声にも力が入っており、何枚も機械にコインを投入してやるのだが、ジャラジャラとコインが増えて落ちて来る事が無く、さらにオバチャンは興奮して、袋から札を引っ張り出し、カウンタ−にバシッと叩き付け、「崩して早く」と叫んで、しかしあの袋の金はロッテリアを売ったもので、何処かへ持ってって渡さねばならぬお金なのではなかろうか、と僕は思いつつ見てたのだが、カウンタ−の青年も多分そんなふうなことを言ったらしく、オバチャンはさらに興奮して、「これはアタシのお金なんだよ。アタシのお金を自分でどうしようと勝手じゃないのさ。ツベコベ言わずに早く崩してくれたらど−なのさ。さぁ早く」と両手を振り回して青年に食って掛かっちゃって、(これも多分そう言ってるのだろうという想像だけど)青年も渋渋両替して、しかしマキナはイイ反応を見せず、オバチャンも少し冷め、お金も心配になったのだろう、スゴスゴと何も言わず帰っていったのだった。僕は店を変え、Beerを頼むとつまみがセットになっていて、それも10種類位の海産物から選ぶことが出来るBarで晩飯にした。今まで回って食べてきた所は、カウンタ−のタパスを、まぁ腹一杯にはならないけれど、パンも付いてるし、結構飯の変わりにしてきたのだけど、一皿いくらでBeerとは別に頼まねばならぬわけであり、アルメリアではセットになる分、量は少なく本当につまみらしくなってしまうのだけど、僕はボカディジョのトルティ−ャのエビ入りと、Beer2杯にそれぞれエビの焼いた奴を頼んだので、結構腹一杯になって、値段もタパスを別に頼んだときと変わらないので、なかなか嬉しいものがあったのだ。しかし、目の前のショウケ−スの中の魚の一杯入ったトレイで、デッカイ蝿が産卵している現場を目撃してしまって、ショウケ−スを指で突いてもその蝿はびくともせず、何処を見てるのか分からん目の前で、足を擦り合わせながら産卵に専念していて、さっき食べたエビは大丈夫だったのかしら、と腹を撫でながら宿へ帰ったのだった。そして次の日、イヨイヨシェラネバダを回ってグラナダへ向かった。

※スペイン語の数の言い方

1、ウノ。2、ドス。3、トレス。4、クワトロ。5、シンコ。6、セイス。7、シエテ。8、オチョ。9、ヌエベ。10、ディエス。

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