松の赤斑葉枯病
知人から大切な松が死にそうなので助けてくださいという依頼が来た。早速現地に行って対象樹木を見てうなってしまった。
まさに虫の息で、人間で言えば重症から危篤状態という大変危ない段階に陥っていた。この病気は菌類のカビの仲間が、葉に入り込んで繁殖し、葉を枯らしてしまう病気である。広葉樹だと1年に何回も葉や枝を再生することが出来るが、松は1年に一度しか葉を作ることが出来ない。、もし、少し顔を出している新芽が菌に冒されると、確実にこの木は死に至る所であった。 少し根を掘ってみたら、土壌条件は比較的良かったので、葉だけの治療に限定した。
「赤斑葉枯病」の病気の特徴(病徴)は、この写真のように葉の先に褐色の斑点が出てきます。これは、新芽が出た時、出たばかりの軟らかい葉先の部分に菌体が付き、それが葉の内部に入っていくからです。その後、葉全体が褐色になって枯れてしまいます。 葉の先に少し斑点が出てきたなと思ったら要注意です。じわじわと年数をかけて樹全体を弱らせていきます。
治療法についてですが、私の場合、余り重症でないと判断した時は有機銅剤(キノンドー等)と有機硫黄剤(ジマンダイセン等)を2週間交代で交互に各3回ずつ計6回噴霧してきました。しかし、この樹は不安であったので合計で12回、6ヶ月に渡り噴霧を続けました。
治療半ばの3ヶ月後の状態です。新芽が順調に成長しているのが分かると思います。
10月で治療を終えましたがそれから1ヶ月後の11月、写真のようにすっかり元気な姿を取り戻しており、正直言ってほっと胸をなで下ろしました。
その後、何故このマツだけ病気に罹患したのだろうかと疑問に思ってこの庭全体を見渡したところ、あちこちのマツが同じ症状で苦しんでいました。
そして、数年後、せっかく治療したこのマツも、また、同じ病気になってしまったのです。
最初は、この庭園に病原菌が集まっているだろうと安易に考えていました。しかし、庭全体を見渡した時にハタと気がついたことがありました。それは、樹木周辺の草が異常に枯れていたことです。 もしかしては? とお聞きしたら、案の定、「粒状除草剤」をあちこちに散布しているとのことでした。結果的に、病気に罹患するほど樹勢が衰退した真の要因は、除草剤散布による人災でした。同じ除草剤でも、葉から入って根を枯らす「液状除草剤」と土壌自体を変えて植物を生えなくする「粒状除草剤」は根本的な違いがあります。
なお、広葉樹は比較的除草剤に強いけど、裸子植物・針葉樹のマツは、かなりのダメージを受けるようで、多くの枯死樹を見てきました。
除草剤で枯死した2例です。
1、マツだけが枯死しため、依頼主は原因究明が出来ませんでした。結果として粒状除草剤の散布により、この庭園に植栽していた数本のマツが全て枯死していました。
2、これも粒状除草剤の散布によって枯れた松です。天然記念物指定でしたが、助けることが出来ませんでした。本当に痛ましかったです。