鹿角市指定天然記念物  鹿角市十和田末広 松山    

松山不動山神明社親杉の樹勢回復処置

 以前、在職中、大変にお世話になった末広松山地区の方からの依頼で、神明社(松山不動山神明社)親杉の樹勢診断をしました。
しかし、いくら樹木医の資格を持っていると言っても、日本に生息する樹木の中では最長寿と言われているおり、なおかつ、源頼朝が鎌倉幕府を開いた頃の600〜700年前、この世に生を受けたスギの「寿命を延ばすにはどうすればいいのでしょうか」という氏子代表からの依頼は、正直言ってその責任の重さに押しつぶされそうになったことは間違いのない事実です。

 しかし、気を取り直してこの木の周囲をじっくり見渡した結果、私なりに次のようなことを予測することが出来ました。
このスギが育ったときは周囲に光を妨害する木が無く、南側に向かって思い切って枝を張ったようである。しかし、周囲の若いスギが生長するにつれて次第に下枝に光が当たらなくなり、仕方なく上に枝を張ると共に、不要になった下枝を自から枯らしたと思われる。その仮説に基づいて、次の提案を診断書に記入しました。
1、枯れ枝の腐朽が結果的には幹腐朽に及ぶ危険性があるので、早急に枯枝を切り落とすこと。
(1)切断痕の幹内への巻き込みを促進するために、枝はブランチカラー(枝の根元のふくらんだ部分)に沿って切断する。 
(2)巻き込みまでの間に切断痕が腐朽しないよう、切断面にはキガタメールPSNY6を塗布する。 
2、この場所は窪地になっているので日照時間は少ないが、周囲の斜面に生息している落葉樹が、更に親杉の日照条件を悪くしている。そのため、出来うる限り斜面の雑木は切り払って欲しい。
 


 この親杉について簡単に紹介します。
 神明社親杉(鹿角市指定天然記念物) 鹿角市十和田末広字向平106
 旧国道である末広松山地区の中間点から山側に少し走ると、こけむした鎮守の森が見えてきます。そして、見事な杉が神社に向かって植栽されていますが、その一番奥にあるのがこの親杉です。この杉は寛文元年(1661年)、柴内与兵衛氏がこの地に伊勢堂を建立した時には既にかなりの大木であったと記されています。現在でも、神社の鳥居に使った注連縄(しめなわ)を毎年、暮れに親杉に巻き付け、その朽ち方で農作物の豊凶を占っていると聞いております。

◆樹高/30M 
◆幹回り6.12M 
◆枝張り20M
◆推定樹齢/600〜700年 樹種/スギ科 スギ
●交通アクセス/JR花輪線末広駅から徒歩20分


 
 樹高30M、幹廻り6.12Mのスギは、実に堂々としています。































 枯れ枝が目立つ木が親スギです。写真のように光不足で役に立たなくなった下枝は、自分で枯らしてしまったようです。































 枝を切断する方法として最初は60万円の予算でクレーン車の利用を考えたようです。しかし、金額はさておき、乗用車1台がようやく通行する程度の幅しかない農道に、大型のクレーンを入れることは不可能な事が判明、氏子一同は、しばし、頭を抱えたとのことでした。
 しかし、当年75歳の木こり職人から、日当3万円頂ければ、切ってあげるよとの申し出があり、氏子一同、諸手をあげて依頼することが決まったとのことです。その後、何回か煮詰めた後、ついに、平成18年7月23日(日)枝おろしがなされました。
 左の写真のように枝切り名人が対象木に登りはじめた時、改めて、この作業の規模の大きさを痛感することになりました。そして、見る前は、自分でも木に登ることは可能かなと思っていましたが、左の写真のスタート地点でその考えが相当に甘いことを知らされました。上の枝にロープを絡め、そのロープを頼りにスルスル登る姿はまさにサルそのものです。恐れ入りました。 右の写真は、一番上の枯枝を切断するところです。ほとんどが人間よりも太い枝です。人のそばで白く光っているのはチェーンソーです。



















 不安定な枝の上でバランスを取り、左手で命綱を引き、右手一本で木を切る姿は、まさに、サーカスの世界でした。プロの技術と経験に脱帽です。右の写真のように、枝はブランチカラー(枝の根元のふくらんだ部分)に沿って切断し切断面にはキガタメールPSNY6を塗布し、表面を固めました。何年か後、この切り口がすっぽり樹皮に巻き込まれることを祈念しております。



























 左の写真ですが、右の作業前の木と比べ、枯れ枝が無くなり本当にすっきりしました。































 切り落とした枝を集めています。枝の太さに改めて驚きました。

枝の切断面を見ると間違いなく腐朽しています。中には、時既に遅く、この枝の腐朽が幹にまで及んでいる箇所も残念ながらありました。もっと早く、100年前? 200年前?、に、この作業を行っていれば、もっと腐朽が少ない状態で枝おろしが出来たのですが・・・・・・・。
















 
 親杉への光を遮っていた雑木も出来うる限り伐採しました。ここは地面が岩盤で出来ているので地滑りはないのですが、春先の雪崩が少し心配です。




























  作業規模は大きかったのですが、樹勢回復の考え方としてはいたって簡単な「枯枝おろし」と、光確保のための周囲の「刈り払い」でした。 これで、この地区の心の支えになっている神木が少しでも多く生きながらえることを祈念しております。

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