私が収集した民話や他の方が記録した民話などを総計すると、200余の民話が伝えられています。人間と人間のかかわりを題材にした昔話、人間と動物のかかわりを表現した昔話、動物と動物のかかわりをあらわした昔話、また人間・動物・妖怪たちのかかわりを題材にしたものなどいろいろな形態の昔話が伝えられています。面白いことに民話の背景が山や川や田などが中心ですが、海に関わる民話はありません。民話はその土地や風土が作り上げるものなのでしょう。
私は語り手を目指す気は、ありませんでした。収集活動をしようと思っていました。「鹿角民話・伝説の会どっとはらぇ」を創立しました。人間の人格形成に昔話はどのようにかかわっていたかを研究したいと思っていました。「どっとはらぇ」と言うのは鹿角のむがしっこでは、最後に語り納めに「どっとはらぇ」といいます。それを名前にしたのです。15人ほどで立ち上げました。鹿角ではたくさんのむがしっこが残り、語り手の古老の方々がいました。収集活動を中心に活動していました。会員から収集活動だけでは面白くないから、市民の皆さんに、私たちが語って聞いてもらったらどうかとなり語ってきました。平成6年から「鹿角のむがしっこのつどい」を開催し13回となりました。私は10回目当たりから語り方に疑問を感じていました。
私たちの語りもそうですが、多くの語りの会に参加して聞いてみると、語り手は自分の思いのままに語っているような気がしました
1人芝居風に大げさな所作をいれて語る人、意気をつけて語る人、たんたんと語る人、小道具を使って語る人、絵を使って紙芝居として語る人、表情豊かに顔を造って語る人、テレビの昔話を語っている女優さんの語りのように語ろうとしている人などがいます。個性豊かに語ろうとしているように思います。自分なりの民話の語り方を捕らえて語っているのでしょう。
しかし、このような語り方でいいでしょうか。
私が収集活動をしているとき、あるばあさんに、
「おばあさん、おばあさんはどんなとき孫にむがしっこを語って聞かせたのですか。」
聞きました。すると私には思ってもいない意外な答えが返って来ました。おばあさんは、
「秋になると稲こきしながら、若い夫婦が喧嘩するのです。それは銭っこなくなるからです。米まだ取れないから銭っこ入ってこな いからです。喧嘩するところを孫に見せられないでしょう。私が孫をでろっとたなって寝床にいって、孫といっしよに寝て尻を軽 く叩きながら、むがしむがしあったどと語って聞かせたものです。」
と教えてくれました。そういえば私も幼いとき向いのばあさんが、旧正月の2日に来て昔話を語って聞かせてくれました。どんな話だったかはわかりません。だだわたくしたち兄弟3人がこたつの周りで聞いたことは、今でも思い出すことが出来ます。昔話が語られている空間と言うのは「癒しの空間」だろうと思いますし、おだやかでゆっくりしていて別世界にいるような空間を、作り上げる事ではないでしょうか。時間の流れも止まっているような世界を作り上げることではないでしょうか。そして鹿角の風の音、川の流れ、土のにおいが感じられる語りをする事が地域のむがしっこを語り継ぐ語り手の役割ではないかと思います。それではどのような語り方をしたらよいのでしょうか。
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